言葉は大事です!
もし、あなたが患者さんを「足底筋膜炎」と診断し、提供した治療に効果がなかった、さらには悪化させてしまった場合、この記事はある程度答えを示してくれるかもしれません。

臨床では、複雑な医学情報を患者に分かりやすく簡単な言葉で伝えようとすることがよくあります。しかし、時にはこの“単純化”が、臨床家ならびに患者さんの治療の方向性を誤らせる原因にもなります。
この記事の目的は以下の2点で、
1. 足底筋膜症に関して正しい用語を使う重要性を、臨床的に深く理解してもらうこと。
2.なぜ特定の治療法が有効でない可能性があるのかを、患者さんに説明するためのリソースを提供すること。
足底部痛は珍しくない症状の一つです。多くの研究では10人に1人が生涯で一度は経験すると報告されています。これだけ一般的で症状の進展には複数の因子が関わっていることから、治療への応答に個人差があるのは当然です。

なぜ治療による差が出るのかを理解するためのヒントが「足底筋膜炎」という名前に隠されています。
この記事で学ぶこと:
「足底筋膜炎(Fasciitis)」と「足底筋膜変性(Fasciosis)」と「足底筋膜症(Fasciopathy)」の違い
この記事では学ばないこと:足底部痛の意味合い、この状態にかかわるすべての因子、足底部痛に対する様々な治療法とその有効性
足底腱膜(Plantar Fascia)とは?
かかとから足の前方の各構造物へと伸びる厚い結合組織であり、より専門的にいうと腱膜(aponeurosis)である。

そもそも「腱膜」となにか?
はじめに、腱や靭帯とは異なるものです。
筋肉の力を腱や骨、または隣接する軟部組織に伝達するための鞘状の繊維性の結合組織で、筋-腱構造に多くみられます。
腱膜は多くの場合、コラーゲンに富んでいて機械的性質は方向によって異なります。(異方性)このことによって力の分散とエネルギー伝達に優れている構造になっています。
足底部痛の診断名に用いられる用語
・警官のかかと
・ランナーのかかと
・足底痛(Subcalcalcaneal pain)
・足底筋膜炎(Plantar fasciitis)
・足底筋膜症(Plantar fasciopathy)
・足底筋膜変性(Plantar fasciosis)
これらの名称はすべて同じ足底筋膜に関連しますが、それぞれの状態には微妙なニュアンスの違いがあります。
上に挙げた「状態」がどのように足底筋膜に影響を与えるかには独自性があり、他の構造物を巻き込むことや、なりやすいサブグループが異なることもあり、どのような因子が症状を進展するのかも異なる場合が多いです。
この記事でそれぞれの状態を細かく解説することは今回やりたいことの域を大きく超えていますが、一つ重要な事柄があります。
ひとつの状態/病態はその原因、臨床所見、ふさわしい治療に個人差があることが多いのです。

言葉は大事!(再)
残念なことに、一部の医療者や研究者は足底筋膜炎を足底部痛すべてに対して使える診断として使用している人がいます。これは多数の研究論文で筋膜炎がふさわしい表現ではないとしているにも関わらずです。一方で、足底部痛と診断を表現する方が、状態を表すのにふさわしいと考えられています。
今回は、筋膜「炎」と筋膜「変性症」と筋膜「症」の違いを理解していきましょう。

足底筋膜炎とは?
足底筋膜炎とは足底腱膜の炎症に伴う踵の痛みを表すのに使われます。
この表現では炎症があることを示唆しています。一方で、最近の研究では必ずしも炎症を伴うわけではなく、長時間の立位により変性や結合組織の破壊により起きている場合もあることが示されています。

足底筋膜変性症とは?
足底筋膜症とは足底腱膜の変性した状態を指します。
より具体的にいうと、足底筋膜の構造の変化であり、炎症の徴候がないものを指します。
ということは、炎症を軽減するような治療(ステロイドなど)は必ずしも痛み・機能不全の原因に効かないということです。

足底筋膜症とは?
足底筋膜症とは炎症と変性の両方を包括した幅の広い概念です。

なぜ正しい用語が大事なのか?
正しい用語の使用で;
病態の理解が深まる:炎症か変性かで治療が異なります。
現実的な期待設定:変性が主因なら回復に時間がかかることを理解できます。
医療者と患者の意思疎通の質が向上:一貫した言葉の選択で医療者と患者の間の混乱が減り、臨床的意思決定がしやすくなります。
「炎症」と「変性」と「症」
足底筋膜炎:「-itis」が示す通り炎症が関与しているとされます。
足底筋膜変性:慢性的な変性による構造変化。炎症はありません。
足底筋膜症:炎症と変性の両方を含む包括的な用語。
足底筋膜症を扱う上で混乱を招きやすいのは、違う要因により発生している場合があるからです。
ある人にとって、炎症が主要因かもしれません。
一方で、荷重に耐えられず起こってしまう場合;エクササイズや運動が激しすぎた場合によるものもあります。こういった場合は身体が過荷重だと警告を発しています。
また、変性と炎症の両方が同時に起きていてそれぞれ割合が異なる場合もあります。
以上より足底筋膜症というワードがふさわしいことがわかります。
以下に踵痛の原因の違いを表しています。

人物1:100%変性、0%炎症;足底腱膜の細胞レベルでの変化により負荷に耐えられなくなっている。
人物2:25%変性、75%炎症;いくつかの足底腱膜に対する物理的変化が見られ、炎症もかなりの割合で関与していることが多い。
人物3:85% 変性、15%炎症;構造の変化が大部分を占めた結果荷重にたえられない。炎症は少量しか見られない。
人物4:100%炎症.0% 変性;健康な構造が過負荷により炎症を起こしている。
この事柄について、言えることはたくさんありますがひとまずこの記事を簡潔かつわかりやすくするためにこのくらいでとどめておきます。
治療に対する影響
「-itis(炎症)」
ステロイド注射(例:コルチゾン)が有効です。
運動療法は症状を悪化させる場合があります。
安静、テーピング、インソール、靴の変更などによる負荷の軽減が必要です。
リハビリエクササイズはより低い負荷で、症状をやわらげながら炎症組織に負荷がかかりすぎないようにしなければいけません。

「-osis(変性)」
ステロイド注射は効果が薄いことが多いです。
運動療法が効果的です。
テーピング、インソール、靴の変更などによる負荷変化と負荷への耐性(エクササイズや活動を徐々に増やす)がキモになります。
ショックウェーブ治療などが補助として有効です。

「-opathy(混合)」
両方の要素があるため、治療効果は個人差あります。
負荷の内容と程度を個別に調整する必要があります。
今回、圧負荷 vs 伸長負荷の話はしません。
治療と回復が難しくなったとき、症状が悪化することがあります。この悪化は炎症部位でない場所の炎症により動作が難しくなった場合などが挙げられます。この場合、治療効果がないどころか、悪化させているように見えます。また、日常生活も大きく制限されます。
このような悪化は一般的であり、痛みや炎症が起こったとき、個人の治療計画はその状態の変化やバリエーションにより変化させる必要があります。
キーポイント
・かかとの痛みは炎症性とは限らない
・“-itis”, “-osis”, “-opathy” の違いを理解することが大切
・かかとの痛みが必ずしも足底筋膜に起因するとは限らない
・治療がうまくいかない場合は、他の医療者に相談するのも一つの手
この記事が皆さんにとってお役に立っていたら幸いです。
日本の医療界の常識を覆す、足底腱膜炎治療の新常識
あなたは足底腱膜炎の治療で、病態生理学やリスク因子の正しい知識を持っていますか?この足病学臨床マスタープログラムは、世界中の最先端の医学知識を、日本語で学べる唯一無二のプログラムです。足底腱膜炎に対する治療アプローチの概念が180度変わり、患者さんへの貢献と自身のキャリアに大きな差をつけることができるかもしれません。世界基準の足病学が推奨する、足底腱膜炎の治療法をマスターしてください。
