本日は足底腱膜炎について掘り下げ、”典型的な”症状ではないことを示すいくつかの兆候をについてお話しします。
非典型的な兆候や症状を見極めることは、臨床管理のあらゆる側面に影響を及ぼすため非常に重要です。
もしも標準的な治療に反応しない患者がいる場合は、一度「初心に戻って」、鑑別診断を検討する必要があります。
足底腱膜炎は、活動的な人、座りがちな人、年配の人、若い人…、基本的には足底筋膜を持つ誰にでも、リスク要因がそろい、物理的負荷がかかることで発生する可能性があります。
足底腱膜炎を評価、治療する際、臨床家はしばしば生体力学的および解剖学的要因に過度に焦点を当てがちです。
しかし、大多数の生体力学的および解剖学的要因は、因果関係にあるのではなく、相関関係にあると考えられています。
「これらの機械的要因と踵の痛みの関係性における調査は、横断的研究に限られており、これらの要因が足底腱膜炎の病因に関与しているかどうかを判断することはできません… よりエビデンスレベルの高い研究、特に前向きコホート研究が、これらの関連要因が因果関係を持つのか、それとも結果的なものかを判断するのに役立つでしょう…」
Sullivan, Pappas & Burns(2020)
これは、生体力学が一部の患者ににとって重要でないということではなく、特に「非典型的な」症例を扱う場合は生体力学が常に主導的役割を果たすわけではないことを示しています。
非典型的な症例に入る前に、まず典型的な症例がどのようなものかを確認しましょう。
典型的な足底踵痛の症例でも、考慮すべき変数が多数あり、それぞれに個別に対応が必要です。
強固な評価の枠組みを構築することで、過負荷がかかった組織か、または負荷が不足している組織かまたは圧迫による病態か引張による病態か、さらには個別の臨床症状を引き起こす他の要因を特定することができます。これにより、個別のケースにあわせてどのような治療方針を取るべきか決めることができます。
足底腱膜炎の典型的な症状
自己申告による症状
足底腱膜内側の痛み(+/- 足底筋膜に沿った痛みを伴うこともあります)。
安静や運動不足の後、最初の数歩で最も顕著に痛みが現れ、悪化します。
また、長時間の体重負荷(歩行や立位)後に痛みが強くなることもあります。
+/- ↓
時間と共に症状が徐々に悪化する場合があります。
痛みの強さや持続時間(例えば、運動不足後、痛みが和らぐまでの時間が長くなったり、体重負荷後、痛みが再び発生するまでの時間が短くなることがあります)。
時間が経つにつれて、治療の効果が薄れていく場合があります(例えば、適切な靴選びやストレッチがもはや症状を緩和しなくなることがあります)。
より強度の高い運動後に症状が悪化することがあります。
例えば、長時間・激しいランニング後や、日常の活動を超える長時間の体重負荷の後に、翌朝痛みが悪化することが多いです。
引張(牽引) vs 圧迫
足底腱膜炎は、伸張負荷や圧迫負荷、またはその両方によって引き起こされることがあります。
臨床歴や個別の症状、臨床評価、および試験的な介入への反応から、患者の病理的な原因を特定します。
注意すべきこととして、両方ともが同時に原因になりうることです。
「足底筋膜炎は、足底筋膜内の過剰な伸張負荷によって引き起こされると考えられていますが、組織学的な観点で言うと、屈曲、せん断、圧迫も潜在的に関与している可能性があります…」(Wearing, 2006;Kirby, 2017)
足底筋膜は伸張負荷と圧縮負荷にさらされます。
患者がどのような症状を有しているかに注意を払うことで、適切な治療にを導くことができます。
典型的な症状の場合、一般的な治療に対して個別のアプローチを取ることが重要です。
足底筋膜炎の非典型的な症状
典型的な治療介入を非典型的な臨床症状に適用しようとすると、困難が生じることがあります。
これは、臨床歴の把握、臨床評価、治療効果の定期的なモニタリングの重要性を浮き彫りにしています。
もし治療が功を奏さない場合、何かを見落としている可能性があります。
再評価を行うか、患者の手助けができる専門家に紹介することを検討してください。
足底腱膜炎の症状に対する鑑別診断を絞り込むために、どのようなステップを踏めば良いでしょうか?
ステップ1 – 既往歴と怪我のメカニズム
NOLDCATSフレームワークを忘れずに活用しましょう。
NOLDCATSフレームワーク
Nature(性質)
症状の全体的な説明。
Onset(発症)
痛みはいつ始まりましたか?どのように始まりましたか?最初に痛みを感じたときはどのようなものでしたか?
Location(部位)
どこが痛みますか?局所的ですか?痛む場所は変わったり、移動したりしますか?
Duration(持続時間)
痛みがどれくらい続いていますか?痛みが出るとき、それはどのくらいの時間続きますか(秒、分、時間、日)?
Characteristics(特徴)
痛みの特徴(鋭い、鈍い、刺すような、焼けるような、鈍痛、深い、表面的)および関連する症状(しびれ、無感覚、筋力低下など)。
Alleviating & Aggravating Factors(緩和および悪化要因)
何が痛みを和らげたり、悪化させたりしますか?動きによって改善または悪化しますか?硬い/柔らかい地面に立つとき、違いがありますか?それとも変わりませんか?
Timing(タイミング)
痛みは断続的ですか?それとも持続的ですか?1日の中で変動しますか?特定の時間帯に痛みがひどくなることはありますか?
Severity(重症度)
痛みの強さはどれくらいですか?通常は視覚的アナログスケール(VAS-P)で評価します。
しかし、痛みについてのみ聞くだけでなく、機能にも焦点を当てる必要があります。
機能的評価および患者報告型アウトカム指標(PROMS)を用いることで、臨床家が患者の状態によって引き起こされる機能障害の程度を把握できます。
既往歴を聴取する際には、患者が何を話したのか、そしてどのように話したのかに注意をはらってください
「痛みのカタストロフィー(痛みが非常に深刻だと感じること)や運動恐怖症などの心理的要因は、足底腱膜炎の患者の治療において重要なことです。これらの要因は、痛みの重症化、運動・歩行障害、治療効果の低下、薬(痛み止めの使用量)の増加、消極的な気分など、多くの負の結果と関連しています。」(Cotchett et al, 2017)
STEP 2 – 臨床評価における解剖学的アプローチ
筋骨格系の損傷を評価する際には、解剖学に基づいたアプローチをすることで、怪我に関与している可能性がある体内全ての構造をもれなく把握できます。
解剖学的アプローチを足底腱膜炎に適用することで、より多くの鑑別を診断時に考えることができます。
ステップ3 – 機能的ストレスを伴う臨床評価
臨床評価を行う際、患者から提供された主観的な情報から、私たちは客観的な評価を行います。
これには通常、触診、受動的運動テスト、能動的運動テストやその他の特定のテストなど様々な機能試験がが含まれます。
客観的評価や負荷テストを行い、典型的な足底腱膜炎の症状が見られない場合は鑑別評価に進みます。
一般的な足底筋膜の評価方法;
ウィンドラステスト、足底筋膜に対する負荷テスト 、圧迫要因を評価するためのテーピング
また、いくつかの鑑別診断は既往歴から特定することができます。
例えば、急性の踵骨骨折や足根管症候群など。
#症例1: 19歳 男性
2mの高い擁壁から飛び降りた。
その際に、鋭い痛みを踵に感じた。
その後「鈍い痛み」に変わり、2週間続いているが改善しない。
X線画像検査により非転位、踵骨の部分骨折が確認された。
✓怪我の機序から骨折が臨床的に疑われる。
✓触診で局所的な圧痛が見られる。
✓X線で確定診断。
#症例 2: 39歳 女性
4ヶ月前に足底筋膜炎と診断され、他院で標準的な治療を受けている。
過去6週間で痛みのパターンが変化。
以前の痛みのは「典型的な」足底のかかとの痛み:初動時に痛みがあり、動くことで軽減する。
現在の痛み:朝一番は問題ないが、長時間の体重負荷で不快感が悪化。
足根管の内側下縁から足底部および内側縦アーチにかけて、微妙な間欠的なしびれが発生。
✗踵骨隆起内側の触診にて痛みなし。
✗ウィンドラステスト:体重負荷あり/なし共に陰性。
✓足関節背屈の可動域制限あり(体重負荷ランジテスト)
✓ティネルテストで軽いしびれあり。
ティネルテスト:感度25%~75%、特異度70%~90%(Kiel & Kaiser, 2022)。
✗ 陰性所見:背屈外反テスト、下肢伸展挙上テスト(SLR)、スランプテスト(Slump Tests)。
ステップ4 – 非典型的な症例の特定
既往歴の聴取や客観的・機能的評価より、鑑別診断に迷いが生じた場合は代替的な治療方針を検討し始めます。
治療法が典型的な足底筋膜炎と似ている病態もあればは大きく異なるものもあります。
治療方針を決定する際の参考になることがあるので、疑われる鑑別によっては、診断画像を利用することが推奨されます。
治療の詳細なについては今日の範囲を超えますが… もし足底筋膜炎の評価、管理、リハビリテーションに関するさらなる情報を学びたい場合は、ぜひ足病学臨床マスタープログラムをご確認ください。
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参考文献
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- Riel, H., Cotchett, M., Delahunt, E., Rathleff, M., Vicenzino, B., Weir, A. and Landorf, K., 2017. Is ‘plantar heel pain’ a more appropriate term than ‘plantar fasciitis’? Time to move on. British Journal of Sports Medicine, 51(22), pp.1576-1577.
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- Wearing, S., Smeathers, J., Urry, S., Hennig, E., & Hills, A. (2006). The Pathomechanics of Plantar Fasciitis. Sports Medicine, 36(7), 585-611. doi: 10.2165/00007256-200636070-00004