初回の問診時に何に焦点を当てるかで、治療を成功へと道くか、失敗に繋がるかが決まります。
治療計画が失敗する最も多い原因の一つは、臨床家が初回の問診で客観的評価の形式的な部分に貴重な時間を無駄にしてしまうことです。
ここで言いたいのは、慢性や長期の筋骨格系の問題に対する初回問診のことです。
急性のけがや術後のリハビリ、スポーツ復帰の評価では、私も客観的な評価や機能的な評価を重視します。
形式的な「見せかけ」の評価とは何を指すのでしょうか?
基本的には、臨床症状に関連する根本的な問題にはほとんど、または全く影響を与えない要素に焦点を当てていることです。
臨床家はしばしば、臨床症状を純粋に生物医学的な視点で見がちです(生物心理社会的視点ではなく)。
これは、慢性傷害のマネジメントを生物心理社会的視点でアプローチする方法がわからない場合や、複雑な筋骨格系の問題をどう評価・管理すべきか迷うときに、習慣的に選ばれるアプローチかもしれません。
例えば、すべての筋骨格系の痛みには生物力学的な評価が必要であり、その「問題」は生物力学的であるに違いない、という考え方です。
しかし、そうではありません…
このルールには例外があるものの、慢性的な筋骨格系の問題を抱える患者には、最初に注目すべきは主観的な情報であることがほとんどです。
慢性的な筋骨格系の問題では、主観的な病歴が治療計画を立てるために必要な情報の80%以上を教えてくれることがよくあります。
患者にぜひとも聞くべき最も重要な質問の一つは、なぜ彼らがあなたに助けを求めているのかということです。
この質問に対する答えを十分に掘り下げなければ、あなたも患者も損をすることになるかもしれません。
患者の最もよくある答えは、「体のここが痛いです」というものです。
もちろん、それは取り掛かりとしては良いでしょう。がしかし、実際に何が起きているのかを明らかにするには、さらに深く掘り下げる必要があるでしょう。
人々が助けを求める理由は、ただ痛みがあるからではなく、痛みが彼らの生活の一部に支障をきたしているからです。
これこそ、私たちが探るべき部分です。
なぜ、もっと深掘りする必要があるのでしょうか?
人間は複雑で、高い耐性も持ち合わせる生き物です。生活に支障がなければ、多くの不快感にも耐えることができますが、一度支障が出始めたり不安が生じたりすると、痛みや不快感が問題となり、助けを求めることとなります。
症状を特定して対処するだけでは、漏れている蛇口の下にバケツを置いて水たまりを防ぐようなもので、なぜ蛇口が漏れているのかという根本的な問題に対処していないことになります。
もちろん例外はあります。単に痛みを減らすだけで、患者が目標を達成できる場合もあります。しかし多くの場合、彼らが抱えている問題は単なる症状にとどまらず、それをはるかに超えていることが見受けられます。
この「なぜ」の部分を掘り下げていくことで、効果的かつ充実したリハビリプログラムを作成するために必要な、関連度の高い情報を数多く特定することができます。
症状 ≒ 生活をする上での活動に影響を与えているもの
主要な症状を特定することで、臨床家は最初に必要な治療を見極め、患者が問題を克服し始める手助けをすることができます。
つまり、「治療の窓」を開くことにつながるのです。
理学療法士グレッグ レーマン氏の言葉を思い出してください
– まずは(症状・目に見える問題を)落ち着かせ、それから立て直す
問題 ≒ 症状のせいで思うように動けていないこと
問題(つまり、症状が何に影響を与えているか/何を引き起こしているか)を特定することで、臨床家はマネジメントプランの全体的な目標を設定することができます。
例えば、ランニングに復帰することや、日常生活動作(ADL)を行うこと、犬の散歩をすることなどです。
どのような活動であれ、これが臨床家の介入に意味を与える目標となります。
そして、患者がその目標を達成することこそが、治療の成功の指標ともなるのです。
患者は、「8の痛みを0にしてほしい」とは言いません。
患者は、「この活動ができるようになるための助けを借りたい」と言っているのです。
患者が目標を達成できないのであれば、痛みを0にしても意味はありません。
懸念 ≒ 症状がこれから引き起こすかもしれないことへの不安
患者の懸念を見つけて対応することが、臨床家としてマネジメントプランを立て、さらに改善する手段となります。
また、患者の懸念を探ることは、次のような要素を見つけ出すことに繋がるかもしれません。
目標の再確認、過去の治療で足りなかった部分の特定、提供すべき医学的説明や教育の確認、そしてマネジメントプランや治療介入に対する患者の積極的な関与を促進する方法です。
目標の再確認: この動きが二度とできなくなるのではないか(目標に対して不安がある場合)
ギャップの特定: 前回の運動療法は効果を感じられなくて途中で止めてしまった。また同じことの繰り返しになるんじゃないか(過去の治療計画と実際の実施状況のギャップが不安につながっている場合)
医学的説明や教育: 腱が切れてしまうのではないか、もしくは治らないままになるのではないか(医学的説明や教育の不足が不安につながっている場合)
ニーズ ≒ 懸念に対処してもらうために求めていること
ニーズとは、患者が臨床家に対してまずは何に注力して欲しいか、そして治療にどう関わって欲しいか、を示してくれるものです。
例えば慢性的な筋骨格系の病状の場合、注意を払うべき点は多くありますが、一度に取り組めることは限られています。
その際今患者が何を必要としているかを尋ねることで、どこに優先的に取り組むべきかを決めることができるのです。また、その答えは、患者の懸念を探る過程で見つかることもあります。
患者は問題そのものよりも、その問題がずっと続くことを心配しているのではないでしょうか?
病理や予後についてしっかりと説明し、安心してもらうことが大切です。
理学療法士ルイ ギルフォード氏の言葉を思い出してください: しっかりと安心させることは、最高の痛み止めだ
患者は、たくさんの矛盾した情報を受け取って混乱していませんか? 説明を行い、理解を促し、状況をはっきりさせていきましょう。
患者は強まる痛みを主に心配しているのでしょうか? であれば、まずは短期的に痛みを和らげる方法を取り入れ、「治療の窓」を開いたのち、長期的な対策に進んでいきましょう。
例えば、足底腱膜症で痛みが出やすい場合、まずはローダイテーピングを使って痛みを和らげ、その後、足底腱膜の高負荷トレーニングや、負荷のかかる動作に徐々に慣らしていく作業に取り組むことで治療を成功へと導く道筋を整えることができるでしょう。
??? = なぜその症状が出ているのか – 例: 漏れている蛇口
これを最後にした理由は、上記の要素を探っていく中で私たちがする質問を通じて、この答えにたどり着くことが多いからです。
病状は正しく診断されているのに、行なっているマネジメントプランや治療そのものが、患者の問題を解決したり、不安を解消したり、ニーズを満たすに至っていないのではないでしょうか?
この記事が、慢性で複雑な筋骨格系の傷害歴を持つ患者との初回問診を、より良い形で進めるためのヒントになったことを願っています。
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