臨床家が患者と健康に関して話すときに、専門用語を使いすぎるという永遠の課題を突いた引用はいくらでもあります。
例えば、 「三時間の議論は一つの良いたとえ話に等しい」- ダドリー・フィールド・マローン
患者自身の身体に何が起きていて、治療の目的とその関連性を理解させることで、患者自身が治療の道中でより能動的に参加することが期待できます。
今日はいくつかたとえ話を共有することで、 a) 今日の議題を実際に提示して b) いくつかのコンセプトを患者に説明 できるようになってほしいです。
たとえ話の発展の仕方、一般化と最適化をする話に入る前に、その普遍性がなぜ臨床家に大事かを探っていきたいと思います。
どの引用を参考するにせよ、全体でのメッセージははっきりしています;
患者コミュニケーションは高い質のケアを提供するのに必須で、時には良い治療成績を示す基盤となる部分となり得るということです。
仮に、複雑すぎる情報を普遍化し、津波のような情報を目の前の患者に適応せずに提供しているのであれば、理由(コミュニケーションの溝の埋め方、エゴ、時間不足、共感不足など)はどうであれ、自分のことを安く売っています。
患者中心コミュニケーション
患者中心コミュニケーション(PCC: patient-centered communication)とは患者中心ケアをベースにした考え方で、その根底には「患者個々人の嗜好、ニーズ、価値観に沿ったケアを提供すること」があります。
PCCは患者と医療関係者が協働して意思決定する上で役立ちます。
PCCの一つの特徴として、患者さんが自身の健康状態を把握することにあり、その中には当然健康問題と治療の共通見解も含まれます。
医療提供者によるPCCは患者コンプライアンスの向上と満足度向上に貢献する。- ヒルデンブランド&ペロールト(2022)
例えを医療関係者が患者に医療情報を説明する際に用いることができ、その結果、患者との良好な関係を築くことが期待されるため、PCCの概念に合致する可能性があります。
効果的なコミュニケーションは私たちが口にする言葉より遥かに大きな概念だが、その有用性は疑いようがありません。
明確なコミュニケーションの重要性をその様々な伝達法、その患者理解に対するインパクトなどを強調した素晴らしい論文として次のものが挙げられます。
足底腱膜炎を抱える患者の生活上の体験と生活姿勢:質的調査(Cotchett et al 2020)
下に示す図は私がこの論文から引用、改変した図です。この論文では足底腱膜炎に関連した生活上の体験、姿勢、教育的ニーズを患者目線から収集しようとしたものであり、その結果臨床家が患者に届けるべき情報とは何か、その届け方はどうすればよいのかなどを検討しています。
この論文の結果では、診断、原因、予後、治療選択など疾患に関わる複数項目で患者が不安を感じることが明らかになりました。 この結果、参加者が自身のニーズに即した治療を探すのに苦労し、イライラしていることがわかりました。
より結果を精査してみると、
「患者の取集した情報の大半は医療従事者からのものであるが、その有用性を実感した場面や説明のわかりやすさは人によってまちまちだった。」
「患者は痛みの除去と明確な説明と個人に合わせた教育を届けてほしいことが明らかになった。」
このことから何がわかるのか?
足底腱膜炎に限らず大半の疾患に関する情報は医療従事者由来であることから、わたしを含めた医療従事者はコミュニケーションの質とエビデンス+わかりやすく、理解しやすく、意味のある情報を保証する責任があるのです。
アナロジー(例え話)
「一つの事柄と別の事柄の比較。一般的には物事の説明や明確化のために行われる」 Oxford 辞書
たとえ話とは二つの事柄の比較のことであり、その目的は物事の説明や明確化のためです。
ヘルスケアの場面では、例えを用いることで医療概念を身近な概念や理解しやすい概念と比較して、理解を深めることが可能になります。
端的に言ってしまえば、医療提供者として例えを使用して難解な医療概念の明確化と患者の医療関連知識整理に役立たせることができます。
とくに効果が高いことが予想されるのは、患者が複雑あるいは難解な健康問題に直面したときであり、患者が医学知識をより理解し、患者-医療従事者の関係改善につながります。
例えはPCCの一つの形態でもあります。治療の目的を共通概念とし、情報の明確化というPCCにとって必須の項目に貢献するためです。
PCCが患者の目的達成へと誘導するのに役立ち、例えば話を使って説明された情報がわかりやすいと感じる数多の事例があることから、医療提供者はたとえ話を日々のコンサルに組み込むことを検討すべきある。(ヒルデンブルド&ペラルート 2022)
印象に残る例え話
例え話は複雑かつ難解な情報をより分かりやすくすることで記憶させやすくさせます。さらに印象深くさせることで、思い出しやすくなることも期待されます。
「印象に残るメッセージとはよく思い出される会話の中でのメッセージであり、大きな影響を残すものである。これらのメッセージは簡潔な場合がほとんどであり、目上の人や関係の深い人、受け取り手が助けを求めているときに発せられたものがほとんどである。」(ヒルデンブランド 2021)
さらに、例え話は患者がすでに知っているものを新しい知識と結びつけるのに役立ち、将来応用するのに役立つことも期待されます。
例え話の例
いくつか臨床で使える事例を紹介しましょう。(あなただけではなく、あなたの患者にも役立ちます)
例1:中枢性感作(さらに学びたい方はこちら)
例え:痛みを経験することは携帯で通知を受け取ることに似ています。
通知(痛み)が発生するには、携帯あるいはアプリ上で新しい情報が存在しなければなりません。
私たちの携帯はこの新しい情報を通知(痛み)によって知らせます。
通常は、通知は正確で、一度確認すると既読になります。
しかし、携帯の通知設定が変更され、小さな事柄であっても通知を送るようになる、あるいはすでに確認した通知を再度送ってくることがあるかもしれません。
中枢性感作では脳の痛みに関数「通知」が大げさあるいは持続的になり、必要のない時も送ってくる場合です。
例2:足首不安定症(さらに学びたい方はこちらとこちら)
例え:足首を捻挫した後にぐらつきや不安定さを感じたことはありませんか?そのような場合を足首不安定症(FAI:Functional ankle instability)と呼び、その原因として神経系の異常(体性感覚)、神経伝達速度とH反射があります。
私たちの身体が筋肉とその運動を制御する方法(例:足首をひねるのを止めるなど)として、足首周りに感覚受容器があり、脳に対して歩いている地面の水平具合や道に石などがおちていないかとそれらの環境に対する足首の動きがどれくらい即したものであるかが知らされます。
つまりはこれらの受容器は脳に信号を送り、脳はその信号を踏まえて指令を送ってくるのです。
足首をひねったことがあるなら、足首から脳への信号の伝達速度が遅くなったり、携帯電話の電波が悪くなったときのように、送られてくる情報が不鮮明になったりすることがあります。
つまり、通常(つまり足首不安定症が無い場合)は足首をひねる恐れがある方向に足が動きそうになるのであれば、足首から脳へと信号が送られ、脳が筋肉に対して指令を送りこの運動を中止させ、足首の捻挫を防止します。
しかし、足首不安定症の場合はこの作用がそこまで早く起こらず、情報が錯そうしているのです。
※ここで注意してほしいのはこれらはただの例であり、患者によってはさらに情報を増やすなり減らすなりする必要があり、その他状態、臨床的側面、治療に関する情報を盛り込む必要があります。
臨床的応用/まとめ
例え(アナロジー)は対面のときや文書のときも応用ができますが、文書で伝える際は客観的事実を伝える方が効果的であるとする研究もあります。
そのため、診察の最後に、私たちが類推して提示した情報の要約を文書で患者に提供したり、患者の理解を深める他の教材を案内したりすることも考えられます。(Explain pain 2nd Ed – Butler & moseley)
例えば、ある健康問題が患者にとって初めてのことであったり(例:新しい診断)、複雑であったり(例:病態生理学の説明など)、理解が困難であったり(例:生理学、病態生理学、治療効果全般……)するような特殊な状況において、頼りにできるようなたとえ(およびいくつかのリソース)を準備し、使用することが私たちの役に立つかもしれない。
例え(アナロジー)を共感をこめて使用すれば、患者との接し方、関係性そのもの、理解、治療成績が向上する可能性があります。
あなたはアナロジーを臨床の場面でつかいますか?
参考文献
Cotchett, M., Rathleff, M.S., Dilnot, M. et al. Lived experience and attitudes of people with plantar heel pain: a qualitative exploration. J Foot Ankle Res 13, 12 (2020).
Grace M. Hildenbrand (2021) Healthcare Provider Analogies as Memorable Messages. Journal of Health Communication, 26: 764–772.
Grace M. Hildenbrand & Evan K. Perrault (2022) The influence of physician use of analogies on patient understanding, Communication Quarterly, 70:5, 495-518
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