プロトコルに沿うことで、かえってリハビリが難しくなり、患者ごとの治療結果が十分に得られないことがあります。
でももっと良い方法が…
今回は、患者一人ひとりに合わせた対応ができ、より良い治療結果を導く「臨床の枠組み」を構築するためのステップをご紹介します。
臨床の枠組みを構築するには時間がかかります。しかし、時間をかけてしっかりとしたシステムを作ることで、結果的に時間の節約となり、長い目で見ると患者の治療結果を向上させることができるのです。
確実な結果や明確な答え、効率的なリハビリ手法を追い求めるあまり、患者のリハビリ過程を不必要に難しくしてしまうことがあります。
もちろん、気持ちはわかります。怪我をした患者にエクササイズや運動療法を処方するとき、最適な選択をしたいと思うのは当然です。
また、最も効果的なエクササイズを見つけ、ベストの治療結果を出したいと、臨床家であれば誰もが思っていることでしょう。
ですが、確実性を求め、不快感を避けることが、結果的に私たち臨床家が本来目指しているものを損なうことがあるのです。
確実性を追い求め、「正しい答え」を見つけようとするあまり、解決策はプロセスの中から生まれてくるものだということを見失いがちです。
例えばアキレス腱症の場合、同じ病態であっても臨床的には何百通りもの微妙な違いがあり、それぞれに合った管理方法が求められます。

病態管理に「画一的なアプローチ」を適用することは、臨床家が陥りやすい落とし穴です。
「○○の病態がある患者には、必ずXYZ治療を行う。」
という思考です。
もちろん、この方法は一部の患者には有効かもしれません、しかし、同じくらい、もしくはそれ以上の患者には効果が期待できない可能性が高いことも確かです。
枠組みを作ることで、プロトコルに頼るよりもより良い結果が常にもたらされるでしょう。
プロトコルとは?
プロトコルとは、特定の状況で実施すべき手順をあらかじめ定めたガイドラインのことです。医療の提供における一貫性と統一性を保つために設計されています。
プロトコルは一般的に厳格で細かく規定されており、臨機応変に対応する余地がほとんどないのが特徴です。
枠組みとは?
一方で、枠組みとは、臨床家が柔軟に対応できるように設計された、より広い指針のことを指します。基本的な原則や目標、ガイドラインを示しながらも、個々の患者の状態や臨床判断に応じて柔軟に調整できるのが特徴です。
枠組みは、プロトコルほど厳格でなく、柔軟性があり、個々の患者に合わせたアプローチを促します。
なぜプロトコルを使うのでしょう?

臨床現場でプロトコルを使用することには、いくつかの妥当な理由があります。
1.標準化と一貫性
プロトコルを用いることで、治療の標準化が可能となり、すべての患者が均一な医療を受けられることを可能にします。特に、大規模な医療機関では複数の臨床家が関わるため、その重要性はさらに高まります。
標準化されたプロトコルは、治療のばらつきを最小限に抑え、臨床家にも患者にも安心感を与えるでしょう。
2.使いやすさ
プロトコルはシンプルで、迷わず実践しやすいものです。
具体的な治療の手順や進行の流れを明確にし、意思決定の負担を軽減します。
3.法的・規制上の遵守
確立されたプロトコルに従うことで、臨床家が法的責任から守られる可能性が高まります。もし広く受け入れられているプロトコルに従っていた上で有害事象が発生した場合、標準的な実践から逸脱していた場合よりも、法的に保護され安くなります。
4.効率性
プロトコルを活用すれば、治療の流れがスムーズになり、効率が上がります。決められた手順に従うことで、臨床家は患者ごとに新たな治療計画を立てる必要がなく、迅速に意思決定を行い治療を開始できるでしょう。
5.研修と教育
プロトコルは体系的なアプローチ/指針を提供するため、新人臨床家の研修に役立ちます。またそれだけではなく、全スタッフが特定の疾患に対する標準的な治療方法に精通できるようにします。
6.保険と報酬
保険会社や第三者支払い機関は、治療が確立されたプロトコルに沿っていることを好む、もしくは求めることがよくあります。これに従うことで、診療報酬の請求手続きが簡単になり、臨床家や医療機関の事務作業が軽減されるでしょう。
7.安心感と慣れ
臨床家は、過去に実践して成功したことのあるプロトコルを使用することで、安心感を得られやすくなります。慣れた方法を採用することが、治療の進め方に対する安心感や自信をもたらすのです。
プロトコルの問題点

プロトコルには利点がある一方で、見過ごせない欠点も存在します。
1.個別対応の欠如
プロトコルは幅広い状況に対応できるように設計されていますが、その結果、画一的なアプローチに陥りやすく、患者ごとの異なるニーズや病態、反応が十分に考慮されないことがあります。
患者の負傷歴、年齢、運動習慣、体格、併存疾患、個人の目標など、患者ごとに異なる要素が見過ごされることがよくあるのです。
2.限られた柔軟性
プロトコルは柔軟性に欠けるため、予期せぬ合併症や患者の回復の進み具合に合わせた調整は難しいことの一つです。
患者がプロトコル通りの回復過程をたどらなかった場合、最適なケアを提供できない可能性があります。
3.複雑な症例への対応不足
複数の疾患を抱える患者や、より複雑なケースでは、既存のプロトコルに当てはまらないことがあります。その結果、プロトコルだけでは十分な対応ができず、治療が不完全に終わる可能性があります。
4.時代遅れな治療法のリスク
新しい研究や臨床手法が登場するにつれ、プロコトルが古くなってしまうこともあります。
5.臨床判断の低下
プロトコルに縛られすぎると、臨床家の判断力が損なわれる可能性があります。
その結果、臨床家の考える力が低下し、個々の患者にとって最適な治療法を考えるのではなく、あらかじめ決められた手順に依存しすぎてしまうリスクが生じます。
6.患者の遵守率の低下
プロトコルは必ずしも患者の希望や生活状況を考慮していないため、遵守率の低下につながることがあります。
プロトコルが難しすぎたり、患者の状況に合っていないと感じられた場合、治療を続けてもらえない可能性があります。
臨床の枠組みを構築するには
P3のオンラインコースやワークショップに参加された方は、これらのコースやセミナーが臨床の流れを整理し、患者の細やかな評価と管理に必要なスキルを向上させる上でどのように役立つかをご存知でしょう。
臨床の枠組みを作るには、エビデンスに基づいた実践と、患者ごとのニーズに合わせる柔軟性を備えた総合的なアプローチが求められます。
特定の疾患や患者グループの管理を改善させたいと考えている臨床家やクリニックオーナーの方に、効果的な臨床枠組みを作るためのステップガイドをご紹介します。
1.対象と目的の明確化
・目的を定義:枠組みの目的をはっきりさせ、対象となる特定の病気や患者層を決めます。
・目標を設定:患者の治療結果を向上させる、治療効率を上げる、患者の満足度を高めるなど、枠組みの主な目標を設定します。
2.エビデンスに基づくガイドラインの確認
・文献レビュー:対象疾患や治療分野に関連する最新の研究、ガイドライン、ベストプラクティスを徹底的に確認します。査読付きジャーナル、臨床ガイドライン、システマティックレビューなど、信頼性の高い情報源を活用します。
・知見の統合:文献から得た主要な知見や推奨事項を要約し、枠組みの設計に活かしましょう。
3.臨床専門知識の活用
・専門家への相談:対象分野で経験豊富な臨床家と意見交換をし、知見や実践的な知識を集めましょう。
・実践経験の考慮:過去に似た患者を治療した経験や、そこから得た教訓を改めて見直してみましょう。
4.基本原則と構成要素の策定
・基本原則:患者中心のケア、個別に対応した治療計画、継続的な評価など、臨床判断を導く基本原則を確立しましょう。
・枠組みの構成要素:評価方法、治療手法、進捗管理、結果の評価といった枠組みの主要な要素を定義します。
5.柔軟なガイドラインの作成
・包括的なガイドライン:個別対応を可能にしながらも、ケアの基本的な枠組みを提供する柔軟なガイドラインを策定しましょう。
・意思決定のポイント:患者の反応や変化するニーズに応じて、臨床家がアプローチを調整できる重要な意思決定ポイントを枠組み内で特定します。
6.患者中心の要素を組み込む
・患者の目標と好み:治療計画に患者の目標や希望、フィードバックを反映させる仕組みを取り入れましょう。
・共同意思決定:臨床家と患者が共同で意思決定を行い、治療が患者の価値観や期待に合ったものになるようにしましょう。
7.ツールとリソース/資料の開発
・評価ツール:アンケートや身体検査、診断テストなど、総合的な患者評価を行うためのツールを作成または導入しましょう。
・治療プロセス:患者特有の要因、治療の進行状況や反応に基づいて、選択肢を提供できる柔軟な治療プロセスを策定しましょう。
8.枠組みの試行と改善
・試験運用:枠組みを少数の患者グループで試行し、その効果と実現可能性を評価しましょう。
・フィードバックの収集:枠組みの使い勝手や、ケアにどのような影響があったかについて、患者や臨床家からフィードバックを集めましょう。
9.導入とモニタリング
・トレーニングと教育:臨床家に対して枠組みの効果的な使用方法を指導し、チーム全員がその原則や構成要素を理解していることを確認しましょう。
・継続的なモニタリング:枠組みの導入を継続的にモニタリングし、結果の測定や患者のフィードバックを活用して、その効果を評価し、改善点を見つけましょう。
10.継続的な改善
定期的な更新:枠組みを定期的に見直し、新しいエビデンスや臨床の革新を取り入れていきましょう。
クオリティの向上:臨床結果や新たな最善の手法に基づいて、枠組みを評価し、継続的に改善するプロセスを確立しましょう。
治療の枠組みを作成する
私自身の臨床や、現在一緒に仕事をしている他のクリニックでも、診察プロセスに沿った臨床枠組みを作成し、次の評価や治療のステップに影響を与える情報を収集できるようにしています。
今後、私が治療介入の枠組みをどのように作っているか、その枠組みが治療経過の概要を示し、治療初期の段階でクライアントにどのような治療の流れになるかを説明する方法について、記事で詳しくご紹介する予定です。