成長するクリニックを運営する臨床家にとって、最大のストレスのひとつは、全ての役割を一人で担っていた状態から、その一部を他の人に引き渡す際に生じる混乱です。
よくある罠であり、ストレスの原因にもなりますが、実は避けられるものでもあります。
かつて自分のクリニック(現在は売却済み)を経営していた最初の数年で、私もこの罠にはまった経験があります。
初日から、ビジネスをいつか売るつもりで運営することを意識しましょう。
つまり、何でも書類に残す、書類に残す、そしてまた書類に残す!
医療従事者がキャリアを積む過程で、特に多いのが、自らのクリニックを開業するというステップです。
多くの人にとって、ビジネスオーナーとしての一歩は、最初は一人の臨床家として始まり、次第に臨床家だけでなく会計、マネジメント、マーケティングなどの複数の役割を担うことになります。
一つのクリニックを運営する多くの人は、複数の役割を兼任しながら、そのバランスを取りつつ臨床業務をこなしていくことを学びます。
一方で、クリニックが成長するにつれ各役割の負担が増してくると、スタッフを採用するという、避けがたい(そして少し不安な)決断を下す必要が出てくることもあります。
文書化されていない業務知識

単独運営の臨床家が手順を記録しない理由の一つは、クリニックの業務についてすべて頭の中に情報があるためです。
すべての業務を一人でこなしていると、必要な情報を頭の中に抱え込むことが多いのです。
しかし、個人の専門知識に頼りすぎると、クリニックの成長に伴って大きな障害になることがあります。
手順を記録しておくと、重要な知識を守るだけでなく、スタッフの交代や予期せぬ事態が起こったときにも一貫性と信頼性を保つことができます。
注意!:クリニックが成長してから手順を記録し始めると、かえってストレスが増えることがあります。
新しい人材が必要だと感じる頃には、すでに自分のキャパシティが限界に近づいていることが多いのです。
ポイント:早めにメンターを見つけることで、先を見据えた計画を立て、将来を踏まえた決断ができ、クリニックの成長をより計画的に、そしてストレスなく進めることができます。
成長を受け入れ、焦点を定める

クリニックの成長に伴い、すべての業務を自分で抱えるのではなく、戦略的に業務を自動化したり、人に任せたり、不要なものは削除したりすることが求められます。
効率的なシステムや手順を構築することで、臨床家は自分の時間を確保し、自分の専門分野や情熱を持つ領域に集中できるようになります。
その結果、質の高いケアを提供でき、クリニック全体のパフォーマンスも向上するでしょう。
一部の業務を手放すことは、弱さの表れではなく、効率を最適化し、患者の治療成果を高めるための賢明な判断であることを理解することが大切です。
何を自動化し、何を任せ、何を削減するかは、あなたの関心や目標、その他さまざまな要素によって変わってきます。
例えば臨床業務に専念したいと考える臨床家の場合、クリニックの運営や事務作業を任せる人材を雇うことが多いでしょう。
一方で、より管理業務に注力したいと考える人は、臨床業務を分担するために別の臨床家を迎え入れることが多いでしょう。
方針と手順の重要性
新しいスタッフがクリニックに加わる際、方針や手順は、スムーズに仕事に馴染むための重要なツールとなります。
単に自分達の業務の進め方を理解してもらうだけでなく、新しいスタッフを受け入れる際の準備やサポートは、その従業員がどれだけ長く組織に残るかにも大きく影響します(詳細は後述)。
オンボーディングプロセスを解説化してみました。
その準備やサポートが不十分(または全く行わないこと)であれば、不安感を生み、クリニックが焦点を欠き混乱した状態を作り出してしまいます。これが、仕事の満足度を低下させる要因の一つともなります。
きちんと文書化された方針やガイドラインは、スタッフが統一された基準に沿って業務を行うための枠組みを提供し、サービスの一貫性、ケアの質、そして患者の安全を確保します。
さらに、明確なマニュアルがあれば混乱が減り、スタッフが効果的に業務を遂行できるようになり、前向きな職場環境が育まれます。
また、フィードバックや改訂を既存の手順に取り入れることで、責任感が高まり、継続的な改善が可能になります。
注意:ここで話題にしているのは画一的な治療プロトコルではありません。患者ケアは常にここに合わせて対応されるべきです。ここでは、クリニック運営の実務的な部分について言及しています。
治療の枠組み > プロトコル
法令遵守と標準化の重要性
いかなる医療現場であれ、法的、倫理的、そして規制上の要件を遵守することは極めて重要です。
文書化された方針と手順を導入することで、クリニックはこれらの基準を確実に守る枠組みを構築できます。
これは、一般の人々を質の低い治療から守るだけでなく、クリニック自身を法的リスクや評判を損なうリスクから守り、患者の信頼と安心感を高めることにもつながります。
しっかりと定義された手順による標準化は、スタッフのトレーニングをスムーズにし、役割や経験の有無に関わらずスタッフ間の連携を円滑にします。
継続的な改善と柔軟性
システムや手順の構築は、一度やって終わりではなく、継続的に改善していくべきプロセスです。
臨床の現場は常に進化しています。そして私たちも、それに合わせて進化しなければなりません。
既存の手順を定期的に監査し、見直し、改善することで、クリニックは変化する状況に適応し、新しい知見や最善の方法を取り入れ、最新の技術に対応し、課題を解決することができます。
また、スタッフにフィードバックや改善の提案を積極的に求めることで、協力と革新の文化が育ち、患者ケアの向上やクリニック全体の効率化へと繋がるでしょう。
まとめ
自身のクリニックを開業し運営する道を歩む臨床家は、最初の段階からシステムや手順の構築が重要であることを理解する必要があります。
ビジネスを始めようと決めたその瞬間から、2回以上繰り返す作業があれば、それはすべて文書化しましょう。文書化、文書化!
手順を文書化し、成長と集中を意識し、方針やガイドラインを導入することは、持続的な成長と成功への重要なステップです。
最終的には、方針や手順をしっかりと文書化し、しっかりとした基盤を築くために費やした時間と労力は、クリニックが成長し進化する中で、大きな成果として返ってきます。
経験から得た貴重な教訓
この記事の最初で触れたように、私はこの教訓を痛い思いをして学びました。
方針や手順をいくつも途中で作成しましたが、それは新しいスタッフを採用するときや外部業者に業務を委託するときがほとんどでした。
その時点まで手順の作成を先延ばしにしていたため、クリニック運営の既存のストレスがさらに増してしまいました。
時間が経つにつれ、多くの人が経験するような危機的状況に至る前に、方針や手順を整えることができるようになりました。
しかし、クリニックを売却する段階になったとき、多くの方針や手順、システムが整備されていること(加えて、さまざまな役割を担うスタッフがいること)が、買い手に非常に良い印象を与えました。
文書化すればするほど、クリニックはターンキー型ビジネス、つまり、新しいオーナーがドアの鍵を回して開けるだけで運営を始められるビジネスに発展します。
*重要なのは、ターンキー型ビジネス(すでに存在し、開始するために必要なすべてのものが含まれているビジネス)として売却できるレベルは、クリニックがオーナーの現場での作業にどれだけ依存しているか、それとも経営全体における役割に依存しているかで大きく変わるという点です(この話はまた別の機会に)。